終業式が終わって、そのまま帰るのも普通すぎて嫌だなって思ったのかフラフラとしていた。
そうしたら懐かしい顔だなと思いつつ見ていたらまさかの知り合いだった。
「よっす、麻多。」
嗚呼この顔、何処かで見た事ある。確か、同じクラスだった。けれど名前が思い出せない。誰だっけ。
まあいいや、上手く取り繕えば構わない。
「…や。」
「相変わらず無愛想っつーか、淡々としてるなお前。」
「まー…別に、こんな暑い時期に熱くなったってうざいし、ね。」
ていうか、お前がうざいというか。別に言いやしないけど。
「だーよ、なー。あ、麻多飯食った?」
「いや?これから食うつもりだったけど。」
「じゃあさ、飯食わね?俺ちょっとだったら奢れるし…話もしたいし!」
「…いいよ。ドリンクバーもつけてね。俺紅茶飲みたい。」
「お前は相変わらず変だよなー。」
「褒め言葉有難う。」
「しっかしさ、お前なんでこっちに行っちゃったかなー。お陰で演劇部酷い事になってたぜ?」
文法としては間違ってる。けど、表現としては間違ってなくて好きだ。
コイツの表現は、何処と無く可笑しくて好き。
「…俺もよくわかんない。けど、演劇がこっちの方がいいって思ったんだよね。色々。」
それに、あの演劇部に興味なんか無い。ただの自己満足で収まるような劇をする所にはね。
「あー!お前あれだろ。直感的に動く奴!そういう奴だろ!?」
「半分正解。でも半分違う。」
ティースプーンを紅茶の中でぐるぐるとかき回す。音はけして鳴らさないようにして。
「もしかしてさー、お前好きな奴できたとか?それで追っかけたとか!」
「……ハズレ。何で俺がそんなのでこっち来るとか、馬鹿じゃないの。」
「おーよ俺は馬鹿ですよーっだ。ま、麻多はそういう奴じゃないってわかってるからいいけど。」
恋愛なんて、昔から面倒だって思ってない。それこそ執着する意味がわからない。
「でもよ、お前あの先輩と仲良かったろ。もしかして駆け落ちとかっ」
「んな訳ない。それは世界が滅んでもない。」
何でこいつはこう面白い発想するかな。結構嫌いじゃない。
それに、あの人と付き合うとなったら絶対俺無理だね。精神的と肉体的に。
「うーん?全然わっかんね!」
「答えは教えないよ。」
ブーイング。くすくすと笑うと反応が変わった。どういう反応が来るかな?
「お前ってさ、昔からおかっしいなーと思ってるんだけどさ。」
「何?女装は俺の趣味だよ。」
「麻多じゃない麻多が麻多になっている気がするんだけど。」
時が止まった気がした。
嗚呼何でコイツはこういう所鋭いのかな。ちょっと嫌になる。でもそこがたまらなく好きになる。
勿論、好意で。
「…大体正解。」
「えっ、マジっ?!」
くすくすくす、って笑うとまた違う反応が返ってきた。
「昔のさ、麻多の笑い方ってまるで人形みたいだなって思ってたんだよ。」
「…面白い表現するね。俺その表現好きだよ。」
「まー、なんていうかー…こう、雛人形とかそんな感じ!!白くて空っぽで薄気味悪いっつーか!」
「何、俺をそんな目で見てたの。きっもーい。」
「そりゃねーだろ。ひっでーな。」
「くすくすくす。」
確かにね、自分が能力者だっていう直感で此処に来た。
自分じゃない自分がやりたくて、ここにいる。
後は…あそこにいたくなかったんだ。
だって嫌な思い出しかない。それだけ。
今となっては、自分じゃない自分はできない。(そうする必要がなくなったから)
じゃあ自分って誰なんだろう?(今君の前にいる俺は本当の俺ですか?)
そう考えると時間が足りない。
「まあ俺はこっちの方が麻多に似合うと思うけどな!」
にっと笑うコイツは嫌なくらい眩しく見えた。(ねえなんでそんな笑い方ができるんですか)
「…ありがとう、とだけ言っておくよ」
そうやって会計を済ませて少し遊んでから帰った。
帰って来たら姉様が訓練中に熱中症でぶっ倒れたらしく、横になっていた。
晩御飯はあゆりさんが作ってた。この人の作るご飯久しぶりだなあ…。美味しいからなあ。
妹君もちょっとバテ気味だったなあ…頭痛いとか気持ち悪いって言ってたし。
本当、気をつけてほしいよね。
夏休み前に、変な思い出が出来た。
ただ、それだけだ。
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