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TW2の麻多さん家の日記帳だったもの。 TW4の目黒さんとか麻多ちゃんとか花楯くんのあれこれ。
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※このSSは人様のPCさんをお借りして書かせていただいた作品です。
 とても趣味に走ってます。公式とは一切何も関係ありません。ご注意ください。




ジリジリと鳴り響く黒電話。今にも早く出ろと甲高いベルを鳴らしていた。
今日はたまたま実家に帰ってきてのんびりごろごろお昼まで寝ていようかしら、と思っていたのに。
折角家には誰もいなくて怒られずにごろごろできるーと思っていたのに!もう!
日も天辺に登ろうとしていて、部屋を出ると汗がぶわっと噴出して暑さを感じた。
廊下を歩けばぺたぺたと鳴り、それがやけに響いて聞こえるあたり静けさが涼しさに思えた。
「はい、麻多です」
重々しい黒電話の受話器を両手で丁寧に持ち上げ抱える。最近黒電話なんて持ってないから腕力落ちちゃったわ。
『あっ、依夜ちゃん!?夜月ちゃんいる!?』
耳を通り、聞こえてきたのはたまに遊びにやってくる春時雨あよさん。お兄ちゃんの、先輩。
「…お兄ちゃんなら、今習い事に行ってる、けど」
恐らく、お姉ちゃんのお手伝いというか…まあ、借り出されたと言ってもおかしくないかな。
『あー、うん、ですよねー。うん、携帯も家電も出なかったから無視されてるのかと思った』
我が家の黒電話は、古典的な黒電話を改造したものでディスプレイがついていて相手先の電話番号が表示される。
大体かかってくる所は数人しかいないので見覚えのない電話番号は勧誘だのだろうからスルーしている。
それを、あよさんには無視と取られてしまった様だ。それは申し訳ない…。
「どうか、したの?」
『いやあ、ぶっちゃけた話…暇だからデートしようかなって』
あれ、あよさん彼氏さんいたような気がする…けど…何故にお兄ちゃんとデート。あれは女装するからデートに入らないのか。
そもそも暇だからデートってなんじゃそりゃ。お金持ちのする事はよくわからない。
『依夜ちゃん依夜ちゃん、夜月ちゃん帰ってくるの何時くらいになるかな?』
「んと…今日は…」
壁に貼ってあるカレンダーには家族の不在を把握するために外出等の時間が書かれてある。
カレンダーの今日を見ると赤字で「道場:~16時」と書かれていた。ちなみに赤はお姉ちゃんである。
道場と書かれている辺り、習い事でのしごきだろうから帰ってくるのは絶対に遅い。
「…かなり、遅い。早くて、17時くらい、とか」
『あー、空手かー…そりゃ遅いか……ねぇ依夜ちゃん、』

そう言われた矢先、

『デートしよっか』

断る理由なんてないから、私はチェリーピンクのタータンチェックワンピースと白のホルターネック付きリボンのどちらかで迷うのである。




結局いつもの蒼のセーラーワンピースと木底シューズ。頭には麦藁帽子を被り、鞄はサックスのいちごのケーキバッグ。
今度はチェリーピンクでまとめようと決心した所で恐らくまた忘れているのだろう。
そう思いつつふらふらと向かい待ち合わせ場所にすとん、と座る。此処でも自分がレディだということは忘れずに足はぷらぷらとさせず、爪先をぴんと伸ばして爪先同士を合わせ、膝の上に鞄を乗せる。
ふぅ、と息を吐き麦藁帽子を取ると自分が汗をかいてることがわかって、鞄からハンカチを取り出して拭う。
元々暑さは苦手で、今年の夏は熱中症に何度かかったことか。水分補給は後でしようと思っていたら、予想外に首筋に冷たい何かが触れて驚いた。
「ひゃっ」
「えへへー、びっくりしたー?」
そう笑いながら隣に座るのは太陽のように眩しい笑顔のあよさんだった。
いつものオレンジ色のパーカーに白いシャツ。七部丈のズボンに普通の運動靴。とてもあよさんらしい、服装。
「…も、やだ。帰る」
「ええええ、やめてやだ一人じゃつまんない」
一人じゃ嫌だって…それなんていう子供…いや、私もあよさんも年齢的にはまだ子供なんだけど。
「折角依夜ちゃんのために水分買ってきたのにー無駄にしないでよー」
それは申し訳ないと思うけど、依夜、びっくりさせられるの嫌いなのよね。
「じゃあさ、帰る前にちょっとお茶しようよ!!奢るから!!!」
お願い!と両手を合わせるあよさんを見ると、何故か申し訳ない気持ちになった。
だって、依夜は年下で、あよさんは年上で…年上を謝らせる趣味は生憎ないので渋々承諾した。
「…パフェ、奢ってくれるなら」
「やったー!!」
……やっぱり帰っていいかな。




「夜月ちゃんにねー、お店案内してほしかったんだけど姐さんに連れられたら無理だよねー」
「最近、サボってること多くなったって頭に角生やして、ずるずるひきずられてたよ」
「…それが普通に思い浮かぶから、怖すぎるぞ姐さん」
あよさんはお兄ちゃんの他、お姉ちゃんやあゆちゃんとも交流があってある意味麻多家と仲がいいと思う。
お兄ちゃん曰く、ご飯作ってくれたり、デザートも作ってくれたりするらしいし…。
…あれ?ちょっと待て。今思ったけど、これすごく恋人同士がする事じゃない?…恋人持ちに対して何させてんのお兄ちゃん。
「あよさんは、何を買う、の?」
「んー、便箋ー。ちょっと前の学校の仲良かった子にお手紙出してるからさー」
「すごい、ね。まめ、だね」
「そう?」
「うん。依夜、前の学校の事なんて、すごくどうでもいいから覚えてない」
「あー、今の方が楽しいから?」
「…それも、ある」
正直に言うとそうである。今の生活はとても幸せだし、満足しているし、あの人はとても優しい。私はそれであればどうでもいいのだ。非常に、わがままな子なのだ。
「ま、今が楽しいって思えるのは一番いいことだよ」
「?」
「今が一番楽しめてる、ってことだからね!」
…意味わかんない。そんなことを思いつつも顔には出さない。レディは、無表情か微笑みが一番。
「あ。あよさんは、どうしてお兄ちゃんを連れて行こうとした、の?」
「…あんまり、聞かないでおいて?」
あよさんがあんまり道とか得意じゃないの、今思い出した。迷子になるたびお兄ちゃんが呼び出されてたの、懐かしい。
「……迷子になっちゃ、やーよ?」
「…考えとく」
明後日の方向を見ないでくれると助かるな。依夜、あんまり体力ないから。
お買い物を済ませた後、お洋服を見に色々な所を回るけれどどれもあよさん好みなお店だ。
逆に依夜には服装が服装だからハードルが高い気がする。
ふわふわでひらひらしているロリータが好きだから、逆にカジュアルな服装は制服みたいなのとか、半ズボンとかそういうのしか着ないからチュニックとか、すごく新鮮。
「依夜ちゃん、白くて細いから絶対似合うと思うのにー!」
「…依夜はロリータとアギ一筋なのよ」
惚気てみた。反省はしてない。子供でいる間は、ロリータ一筋を突き通すつもりなの。

何処かのファミレスに入ってお茶タイム。
「依夜ちゃん何食べるー?」
「…迷う。」
でも晩御飯あるから軽めに……ん、と指さして示すとあよさんは店員さんを呼んで注文する。
その後、無言で、気まずかった。
空気を読んだように比較的早めに頼んだものが届いた。GJ店員。
「いっただっきまーす」
「いただき、ます」
熱そうな鉄板に触らないようにさっくりとリゾットをすくう。はふはふと口元に運べばチーズのとろとろが入り込んで胃に広がる。
「おいしー!!依夜ちゃん、美味しい?」
「…おいしい、よ?」
あよさんが作ったわけでもないのに、何故か依夜とあよさんは笑顔だった。

そうか。あよさんがお兄ちゃんに料理を作るのは多分、好きなご飯を作って、美味しく食べてもらって、笑顔になってほしかったからかなと思った。

「…あよさんは、料理作るの、好き?」
「うん、好きだよ!」
「…あんまり、お兄ちゃんを甘やかさないで、ね?調子に乗ると、嫌だから」
「あはは、まあ、検討しておく」

その後、あよさんは依夜の分まで払ってくれて店を出た。
どうして払ってくれたかと聞くと「お誕生日プレゼント、だよ」と素敵な笑顔で答えてくれました。



私は、彼女が少し苦手でした。
私は、彼女が少し理解できませんでした。

しかし、今回のデートによって、私は彼女を少し理解できたと思います。
少し、彼女を好きになれました。


そして、彼女の笑顔が、明るさが、大好きになりました。



おそまつさまでした。
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