雨の日なんかはさ、化粧がしにくいから嫌なんだよね俺的に。
曇りも別にいいけどさ、暑かった日にゃ死ぬ。着物って分厚くて蒸れるんだよ。
だから、涼しい晴れの日は好き。
温かな風が吹く青空の日も好きだけど
今の俺は幻想廃人じゃない。
“麻多・依”の影武者。代わりなのだ。
「夜月、夜月。」
嗚呼母様の声だ。
けれど振り返ってはいけない、反応してはいけない、動いてはいけない。
俺は“夜月”ではない。“依”という名の仮面を被っているのだから。
「依、依。」
「はぁ、い。」
声は、平気だ。
いつもより若干高い声を出すだけでいい。
苦ではない。難しくも無い。演じるだけ。
演じるのは好きだから。得意だから。
「用意、できた?」
俺が演じる彼女とそっくりな母。
障子から少し顔を出せば子供のように微笑む。
とても綺麗で、とても母には見えない。
嗚呼そのお顔に何度触れたいと、願うことか。
「今、行く」
長い着物を引き摺り、
少し体制を崩して歩けばさあ完成。
麻多・依の完成だ。
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