× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 最初からわかってた 私がこの分岐点で此方を選べばもう1つの選択肢は消えてしまうということも 私がもう1つの選択肢を選んでも幸せにはなれず独り寂しい時間を過ごすということも わかっていた なのに なのに 「下宿している柴村の子供、泣いてたけどどうしたのかしら」 「きっと奥様に泣かされたのよ…ほら、お稽古の師弟関係でもあるから」 女中どもが家の片隅でいつものように噂話をしていたので耳を傾けていた。 くだらない話をしていれば、すぐに自室から出て馬鹿なことしてると言いつけるぞと言う。 しかし今回はそんなこともなかった。 この箱庭は一般家庭における家族の会話というものが少なく情報交換など言わなければ無いに等しい。 聞き出すのが一番なのだがそんな野暮なことして何になるという話だから女中どもの噂話に耳を傾ける。 それが一番の、情報入手というもの。 「でも柴村の子供って、舞妓希望よね…だから此方に来たとは聞くけれど」 「ねえ。京都にいれば良かったのに…」 「外まで聞こえてきたわよ。うちは姉さんのお稽古を受けて舞妓になるんどすって」 「奥様も残酷よねえ…自分が若い内から舞妓になったからって」 「しょうがないわよ、奥様は…」 「それ以上言うと…」 「ああそうねえ…」 自分達の話が言ってはいけないことを喋っていたのに気づいたのかようやく女中どもは小走りで自分達の仕事に戻った。 最近はちゃんと学習してる人たちが多いことで嬉しいやら悲しいやら。 来た時の居心地の悪さはそりゃもう相当の鬱憤を晴らした程だったけど。 この家の主は一応本家の当主である人ではあるけど色々と女関係の噂は絶えないと聞く。 その為に色々な過ちを犯したり消したりしてきたともいうけれど。 他の女は逃げたり消えたりしたけど、唯一消えなかったのが今の奥さんであるとは聞いた。 儚さの中にもしっかりとした強さが惚れたとか言ってるけどそれ本当かとは思う。 同じ言葉を他に言ってたりしてそうだけどなあの色木瓜。 読み進めていた本をキリが良い所で切り上げ、泣いているであろう一人の娘の所へと足を進める。 部屋で泣いてると姉や妹達が来るだろうから、いるとしたら一生日の当たらぬ縁側だ。 あそこは誰もが気味悪がって誰も近付かない。よほどの変わり者か訳ありでなければ。 「どうしたんですか、姐さん」 「…なんでも、ない…どす…」 そう言いながらも、京言葉と嗚咽を止めない彼女は美しかった。 「うち…此処に来なければ良かったどす…」 「どうして?」 「自分の夢、どうしても諦めきれへん…高校終わってからじゃ…遅いんどす…」 ぽろぽろと柘榴石のように大きな赤い瞳からは真珠のような涙がぽたぽた落ちる。 嗚呼、化粧が白粉が落ちてしまうよ。 「本当なら…高校なんて、どうでも良かった…行った所で必要ない勉強して…無意味だって思いながらも、勉強してた…」 「でも、必要な勉強だってあったんですよね」 「私がやりたかったのは、高校なんて行かないで舞妓になるか、高校行っても専門の学校でお洋服作ることでした、から…っ」 小さな指先が顔を覆う。その先は、言ってはだめだ。 「こんな、未来になるなんて思わなかった…能力者になりたく、なかった…!」 壊れてしまう。壊れてしまう。 「でも、貴方が能力者になったから得たものだってあるはずだ」 「失ったもんも多い…幸せだったのに、一気に押し寄せてくるのは不安と不信感だったの…」 「…」 「その手を離してしまえば楽になる、楽になるってわかってたけど離れたくなかった。だって、離れてしまえば楽になる以上に虚無感が押し寄せてきて独りぼっちになってしまう」 「独りは、いやですか」 「嫌。福島の学校の皆も、おばあちゃんも、皆いなくなっちゃって。お父さんもお母さんの間にも入れなくて、この家にも余所者だから馴染めない。私どうすればいいの…どうすれば、いいの…」 美しく綺麗な手が服を掴んで揺らしてくる。 弱く、儚く、静かに揺らしたてる。 逆らえない、年齢の坂。 なろうと思っても、なれないものに彼女は挑んでいた。 未来は、どうにでもなる。その言葉が彼女の道にはない。 どうしようもないものに抗いながら、どうにでもできるものから逃げられなくて、ただ独り苦しんで。 そのための努力だって怠らず、休まずに稽古に励み、捨て切れなかった勉学にも励んで。 これ以上、誰が彼女を苦しめるというのだ。 一般的な事ができない。それが、彼女にとって辛く厳しい道であったのだ。 「…俺だって、歌舞伎やってた時、どうしてこんな所いるんだろうって思うこと多々あります。やめてしまいたいって思う日もありました。けど」 けど何だって言うんだ。自分と彼女じゃあまりにも違うんだ。壁の、違いが。 「結局歌舞伎は押し付けられてたものなのでもう辞めましたが、自分の新しい面を見ました」 それによって、自分は舞台に立つことが、着飾ることが、演じることが好きだと気づいたから。 「貴方はどうしてその道に立ちたいと思ったんですか?お母さんがその道の人だったんでしょう?美しく白い、貴方のお母さんのようになりたいと思ったんでしょう?でもなれません」 だって。 だって。 「貴方は貴方だ。貴方以外の誰にもなれませんし、他の誰かが貴方になることはない。貴方が、貴方になることだ。貴方を偽らないで。今大事なのは辞める辞めないじゃなくて、貴方が何をしたいかだ」 「私の、やりたい事…」 「まだこの先この道を進むっていうのならどんなに荊の道でも泣かないでください。諦めないでください。絶対に貴方はこの道には似合わない。絶対泣くことになると思う。どんなに向いてても、今泣くようならこの先絶対泣くから」 「……私は、服…服を…作りたいんです…和服でも、洋服でも…手縫いで、作りたい…」 「うん」 「ミシンでも……服作って、自分の納得のいくのが…作りたい…」 そう言って静かに涙を流した彼女は美しかった。 自ら手折った茎を治し、立ち上がって日に向かって歩こうと決意した。 どうなるかは、まだわからないけれどそれでも彼女が選ぶというのなら。 嗚呼今日も花々は美しい。 あゆの将来は高2になってからずっと考えてた。 絶対どちらかを諦めなくちゃいけなくて。でも能力者をやめること(=銀誓館を止める)はできなくて。 必然的に自分の将来を諦めなくちゃいけなくて。でもどうしようもないことで。それを誰にも言えなくて。 あゆの中でも何処か諦めはあったんだけど諦め切れなくて結局ボロボロになって。 憧れで入った世界はあゆには辛くてどうしようもなくて。覚悟はしてたけど絶対辛くて。 どこでも独りでやりたいこともできなくて。 これからのあゆの進路、何になるかはわからないけど多分大丈夫です。 頑張ってきてこれた子だからね。 PR この記事にコメントする
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